医療法人における個別指導・監査の基礎知識
目次
1 指導・監査の全体像
指導・監査の流れの全体像は次の図のとおりです。
(1)集団指導
大きな会場において講習会形式で行われるもので、保険医療機関の新規指定および指定更新にあたっての講習会や、診療報酬改定時に開催されます。
講習会が終わればそこで完結し、その後の措置や処分といったものはありません。
集団指導については欠席することによる直接のペナルティはないとされますが、基本的には参加するべきものです。
(2)集団的個別指導
集団的個別指導は、レセプト1件当たりの平均点数が高い保険医療機関等に対して実施されるもので(診療所では平均点数×1.2倍、病院では×1.1倍を超える医療機関のうち、その上位8%が対象とされます)、講習会形式の集団部分、個々の医療機関毎の面接形式の個別部分から構成されます(ただし、東京では現在集団部分のみが実施されています)。なお、前年度及び前々年度に個別指導・新規指導・集団的個別指導を受けた医療機関と、当年度に個別指導・新規指導を予定している医療機関は選定から除外されます。
集団的個別指導については正当な理由がなく拒否すると個別指導の対象となりますので、必ず出席する必要があります。
(3)個別指導
個別指導は特定の保険医療機関等に対して実施される個別の指導であり、個別指導で指摘を受けた項目については診療報酬の返還を要求されたり、場合によっては保険医療機関等の指定が取り消されることもあるため慎重な対応が必要となります。
病院については病院に厚生局の担当者などが訪問し病院内にて、診療所については厚生局の事務所等に出向いて実施されるもので、原則として指導月以前の連続した2ヵ月分の30人分のレセプト、関係書類などをもとに指導が行われます(新規個別指導の場合は1ヵ月分の10人分のレセプトが対象)。
なお、個別指導は都道府県個別指導、共同指導、特定共同指導に分類されますが、個別指導とは地方厚生局及び都道府県が共同で実施する都道府県個別指導を指すのが一般的です。
個別指導は医療機関としても何とか回避したいものですが、その選定対象となるのは概ね次のような場合となります。
- 新規開業の医療機関の場合(新規個別指導)
- 保険者、被保険者等からの情報提供により実施される場合
- 集団的個別指導を受けたにもかからわらず、翌年度も平均点数が高得点(上位4%)に該当する場合
- 集団的個別指導を正当な理由なく拒否した場合
- 前回の個別指導の結果が「再指導」または「経過観察」であるもののうち、改善が認められなかった場合
個別指導の結果については次の4つに区分されます。
概ね妥当 | 問題なしと判断された場合。特に追加の措置は講じられません。 |
---|---|
経過観察 | 適正を欠く部分が認められるものの、その程度が軽微で、かつ、改善が期待できる場合。経過観察の結果、改善が認められない場合には再指導を実施する。 |
再指導 | 適正を欠く部分が認められ、再指導を行わなければ改善状況が判断できない場合。必要に応じて患者調査が実施され、不正・不当が判明した場合には要監査に移行する。 |
要監査 | 監査要綱に定める監査要件に該当すると判断された場合。速やかに監査に移行する。 |
また、個別指導の結果に基づき診療報酬の返還を要求されます(なお、保険医療機関が自ら計算するため自主返還とされますが、半強制的な性格を有しています)。
(4)監査
監査は個別指導の結果などにより、保険診療の内容又は診療報酬の請求について、架空・付増請求等の不正等が疑われて「要監査」とされた場合に、保険医療機関の指定の取消など行政上の措置を検討するべく実施されるものです。
個別指導の結果、監査に進んでしまった場合、保険医療機関の指定の取消の可能性が生じますので、個別指導において要監査とならないように、また、監査に進んでしまった場合にも取消処分とならないように慎重な対応が必要となります。
2 立入検査と適時調査
指導と混同しやすいものとして保健所等が実施する立入検査(医療監視)、厚生局が実施する適時調査があります。
これらは指導・監査と似ていますが、診療報酬の返還を要求されることはなく、また保険医療機関の指定を取り消されるものではありません。
立入検査(医療監視)とは、医療法25条に基づき実施されるもので、主に医療法に基づいた安全管理体制や感染対策、個人情報保護法の遵守、放射線機器の取り扱いといった、医療機関の設備・管理の維持を目的に点検が行われます。
適時調査は、診療報酬支払に関わる種々の施設基準の届出に関して、充足状況をチェックする調査となっています。入院基本料などの基本診療料から特掲診療料まで、すべての施設基準において届出要項と異なるところがないかについて確認が行われます。
なお、適時調査の結果、個別指導や監査に発展する場合もありますので、やはり慎重な対応が必要です。