医師の離婚費用・養育費

目次

1 婚姻費用・養育費

離婚に際して夫婦が別居することになった場合、離婚が成立までの期間は子供の生活費に加えて配偶者の生活費も含む婚姻費用を、離婚成立後は子供のために養育費を支払う必要があります。婚姻費用や養育費は夫婦の経済状況によって異なりますので、夫婦の一方が医師である場合、一般的に収入が高いため毎月の生活費が高額となりがちで、離婚に際して配偶者からは多額の生活費(婚姻費用)や養育費を請求されるケースが多く見受けられます。また、子供が医学部に在学・進学予定の場合、さらに高額な養育費・学費を請求される可能性もあります。

この点、婚姻費用や養育費については裁判所により基準が定めれていて、夫婦の双方の直近の年収、子供の年齢及び人数を基準に算出されますので、この基準額をベースに交渉を進めることが重要となります。婚姻費用・養育費の基準となる算定表は裁判所により公開されていますのでこちらからご確認ください。

2 算定表の利用上の注意点

算定表は子の人数及びその年齢をもとにどの種類の算定表を使用するかを決定し、当該算定表に従って夫婦双方の収入額を基準に婚姻費用・養育費の金額を算出します。例えば、14歳以下の子供が2人の場合の養育費は算定表の表3を使用することになり、例えば、夫婦ともに給与所得者で、夫の年収が1000万円、妻の年収が300万円の場合、縦軸(義務者)のうち給与所得者の年収1000万円の目盛りと横軸(権利者)のうち給与所得者の年収300万円の目盛りの交点が養育費の基準となりますので、月額10万円~12万円が基準となります。算定表をご覧いただくとお分かりのとおり基本的に養育費を支払う側の年収が高額であれば高額であるほど月額の養育費の金額も高額となっています。

しかし、算定表は給与所得者について年収上限を2000万円までしか表が用意されておらず、年収2000万円を超す場合の処理については個別の検討を行う必要があります。例えば、過去の事例では、年収2000万円を超過する場合には年収2000万円を基準に婚姻費用を定めるべきと判断された事例もあり(大阪高判平成17年12月19日)、このような有利な事例の判断を適用できないか検討することが考えられます。

また、勤務医ではなく開業医の場合には、ある程度収入額を調整できる場合もあり、より有利に婚姻費用・養育費の交渉を進めるために事前の準備が可能な場合もあります。

このように医師については、婚姻費用・養育費の決定に際しても事前の準備や個別の検討が必要な事例が多くあります。

著者のイメージ画像

G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。