医師離婚時の配偶者による援助の清算

目次

1 配偶者を医院などで雇用している場合

医院を経営している場合、配偶者を自身が経営する医院で従業員として雇用するなどの形を取っている場合が多くありますが、そのような場合、離婚後も配偶者に引き続き医院の従業員を続けてもらうことは心情的に難しいものと思われます。

しかし、解雇の理由は法律上厳しく制限されており、離婚を理由に一方的に配偶者を解雇することができるわけではありません。仮に、妻側に不貞行為などの離婚原因があったとしても、直ちにそれが解雇の理由となるわけでもありません。

そのため、離婚の際には基本的には配偶者には同意して退職(辞職)してもらう必要があるわけですが、財産分与や婚姻費用・養育費などの交渉材料とされないように慎重に交渉を進めることが必要です。

2 配偶者またはその両親から資金援助を受けている場合

医院の開業に際して、配偶者または配偶者の両親から資金援助を受けている場合も多数存在し、離婚に際してその精算(返還)を請求される医師の方も多くいらっしゃいます。

その際、争点になるのがその資金援助が贈与なのか、貸与なのかという点で、贈与ということであれば返還に応じなくて良いことになります。

贈与か貸与なのかについては、当時のやりとりや借用書などの証拠の内容を清算する必要があります。また、離婚問題が表面化する前に、事前に資金援助は贈与で、返還の必要がないものであることの意思確認が有効な場合もありますので、事例に応じた事前の検討と準備が重要となります。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。