医療事故・介護事故とは

目次

1.医療事故とは

医療事故とは、一般に医療に関する事故をいいますが、医療過誤、インシデント、アクシデント、有害事象など、同様の意味合いで使用されている用語が複数あります。

また、医療法上の医療事故調査制度における医療事故は、同制度の対象となるものに限定されるため、通常の用語よりも範囲が狭く定義されています。

以下では、各場面における用語の定義について、解説していきます。

(1)厚生労働省作成の「リスクマネージメントマニュアル作成指針」における定義

厚生労働省が策定する「リスクマネージメントマニュアル作成指針」とは、国立病院等における医療事故の発生防止対策及び医療事故発生時の対応方法について、国立病院等がマニュアルを作成する際の指針とされるものです。

同指針において、医療事故とは、「医療に関わる場所で、医療の全過程において発生するすべての人身事故で、以下の場合を含む。なお、医療従事者の過誤、過失の有無を問わない。」と定義され、医療事故に含まれる例として、「ア 死亡、生命の危険、病状の悪化等の身体的被害及び苦痛、不安等の精神的被害が生じた場合」「イ 患者が廊下で転倒し、負傷した事例のように、医療行為とは直接関係しない場合」「ウ 患者についてだけでなく、注射針の誤刺のように、医療従事者に被害が生じた場合」を挙げています。

また、同指針は、医療過誤を、「医療事故の一類型であって、医療従事者が、医療の遂行において、医療的準則に違反して患者に被害を発生させた行為」と定義し、医療事故の一類型として位置づけています。

(2)医療法上の医療事故調査制度における定義

これに対し、医療法は、医療事故調査制度の対象となる医療事故について、「当該病院等に勤務する医療従事者が提供した医療に起因し、又は起因すると疑われる死亡又は死産であつて、当該管理者が当該死亡又は死産を予期しなかつたものとして厚生労働省令で定めるものをいう」と定義しています(医療法6条の10)。

そのため、①医療に起因しないものや、②死亡又は死産に至らないもの、③管理者が予期していたものについては、医療事故に該当せず、「リスクマネージメントマニュアル作成指針」が定義する医療事故より範囲が狭く定義されています。

(3)インシデント・アクシデント・有害事象

インシデントやアクシデント、有害事象といった用語については、明確な定義がありません。

一般に、インシデントとは、ヒヤリ・ハット事例の意味で用いられることが多く、「リスクマネージメントマニュアル作成指針」において、ヒヤリ・ハット事例とは、「ある医療行為が、①患者には実施されなかったが、仮に実施されたとすれば、何らかの被害が予測される場合、②患者には実施されたが、結果的に被害がなく、またその後の観察も不要であった場合」と定義されています。

また、アクシデント有害事象については、医療事故に相当する用語として用いられ、医療従事者の過誤や過失を問わないものとされることが多いようです。

(4)用語を用いる上での注意点

このように、医療事故については、いくつかの用語が重複する形で用いられており、使われる場面に応じて意味合いが異なってきます。

また、それぞれの用語と法的責任とは直結するものではありません。例えば、医療過誤についても、一般に医療従事者に過失がある場合に用いられますが、損害賠償責任が認められるためには、損害の発生や、過失と損害との因果関係が立証される必要があります。

したがって、用語の定義に固執することなく、使用されている場面や文脈に応じて、その意味合いを解釈していくことが重要です。

なお、便宜上、このページでは、医療事故を医療従事者の過誤・過失を問わないもの、医療過誤を医療従事者に過誤・過失が認められるものという意味で使用していきます。

2.介護事故とは

介護事故については、明確な定義はありませんが、一般に介護に関する事故をいいます。広い意味では介護事故も医療事故の一場面といえ、介護現場で発生する事故を特に介護事故をいうことが多いといえます。

主な類型としては、利用者の転倒・転落、誤嚥・誤飲のほか、利用者の所有物の紛失・破損も含まれます。

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G&S法律事務所
小里 佳嵩(Yoshitaka Ozato)

弁護士法人G&S法律事務所 代表社員・弁護士。慶應義塾大学法学部法律学科卒業、慶應義塾大学法科大学院修了。2014年弁護士登録(第二東京弁護士会)。TMI総合法律事務所勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。主に、スタートアップ法務、医療法務、不動産・建設法務、労働問題、一般企業法務等の分野を扱う。主な著書として、『建設・不動産会社の法務』(中央経済社・2016年、執筆協力)、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、編著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、編著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。