医療記録・看護記録の取扱い
目次
1 患者に関する記録の種類
医師法24条において「医師は、診療をしたときは、遅滞なく診療に関する事項を診療録に記載しなければならない。」として、医師に診療録の作成義務を定めています。なお、診療録をカルテという場合もありますが、その他の諸記録も含めてカルテということもあります。
その他、医療法21条1項9号、同法施行規則20条10号において診療に関する諸記録として病院日誌、各科診療日誌、処方せん、手術記録、看護記録、検査所見記録、エックス線写真、入院患者及び外来患者の数を明らかにする帳簿並びに入院診療計画書の作成義務が定められています。
これ以外にも、医師又は医療機関は、健康保険法上の保険医又は保険医療機関の指定を受けていることが一般的ですので、その場合、保険医療機関及び保険医療養担当規則9条に定める記録、すなわち保険診療録、療養の給付の担当に関する帳簿及び書類その他の記録についても作成が義務付けられています。
2 作成・保存方法
診療録・看護記録などの診療録等については作成義務者・保管義務者・保管期間が定められていますが、整理すると次のとおりです。
診療録 | 診療に関する諸記録 | 保険診療録など | |
---|---|---|---|
作成義務者 | 医師 | 病院 | 保険診療録は保険医 その他は保険医療機関 |
保管義務者 | 病院又は診療所の管理者、作成した医師 | 病院 | 保険医療機関 |
保管期間 | 5年 | 2年 | 3年 なお、保険診療録については5年 |
保管期間に関しては、それぞれの記録について異なる期間が定められてはいますが、実際、上記の記録は一体のものとして管理・保管されていることが一般的で個別に管理することは煩雑ですので、最も長期間の診療録の保管期間にあわせて最低5年間保存することで良いでしょう。
3 電子カルテについて
電子カルテとは、診療録、診療に関する諸記録等について、電子媒体で作成・保存するものです。昨今、紙媒体のカルテから電子カルテに切り替える医療機関が多く見受けられます。
電子カルテを導入するメリットとしては次のような点が考えられます。
- 電子カルテであれば電子カルテの必要事項を入力すると同時に処方箋やレセプトも作成されるため、紙媒体のカルテから処方箋やレセプトに必要事項を転記する手間を省略することができ、転記の際のミスを防止することができる。
- 処方箋やレセプトを作成する作業を効率化することで、事務作業の時間を短縮し、患者の待ち時間を短縮することに繋がる。
- 患者に関する記録を一元的に管理することができ、過去の棒歴や投薬歴を短時間で参照することができるようになる。
- 紙媒体と異なり、診療録、診療に関する諸記録等について保管場所を節約することができる。
4 患者からの開示請求に対する対応
病院やクリニックを経営していると誰もが一度は患者からカルテなどの開示請求を受けることがあると思います。このような場合にそもそも開示は義務なのか、そしてどのように対応するべきか解説いたします。
(1)任意の開示請求
患者側が、医療機関側が保有するカルテ等の開示を求める方法としては、患者本人が医療機関に対してカルテ等について裁判所などの公的機関の手続を経ずに直接開示を求めてくる場合があります。
このような場合、個人情報保護法において個人情報取扱事業者たる病院が、患者等からカルテ等の診療記録の開示を求められた場合、除外事由にあたらない限り、書面により遅滞なくこれを開示しなければならないと定めています(25条1項)。除外事由は以下のとおりです。
- 本人・第三者の生命・身体・財産等権利利益を害する場合
- 業務に適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
- 他の法令に違反することになる場合
また、厚労省及び医師会が定める診療情報の提供に関する指針においても、医療従事者等は、患者等が患者の診療記録の開示を求めた場合には、原則としてこれに応じなければならないと定められています。
そのため、カルテ等の開示を求められた場合、原則としてその開示に応じるべき法的義務を負うことになりますので、突然の開示請求にも対応できるように事前に開示請求を受けた場合の手続などを整理しておくことが重要です。
(2)証拠保全手続き
民事訴訟法234条において、「あらかじめ証拠調べをしておかなければその証拠を使用することが困難となる事情がある」ときに訴訟前に病院側の保有する診療録・看護記録等を保全するための「証拠保全手続き」が認められています。
これは裁判所が関与する法的手続で、医療過誤訴訟等において証拠となるカルテ等が改ざん、隠匿されるおそれがある場合などに利用されています。
仮に、正当な理由なく証拠保全を拒否すると過料の制裁を加えられたり、事後的に訴訟になった際にカルテの改ざん等を強く疑われる可能性もあるので、医療機関としては原則として証拠保全手続を拒否するべきではありません。
任意開示手続を経ずに行われる場合もありますが、任意開示手続を拒否した場合にはこのような強制的な方法での開示を求められる場合もある点には注意が必要です。