むち打ち、腰部痛

交通事故における障害としてむち打ち、腰部痛は非常にポピュラーな存在です。しかし、客観的な所見が見出しにくく、その存在について保険会社との間で争点になることもしばしばです。本コラムでは後遺障害のうち最もポピュラーであるむち打ち、腰部痛における認定のポイントなどについて解説いたします。

目次

1 むち打ち

むち打ちとは、医学的には、外傷性頸部症状群、頸椎捻挫、又は頸部挫傷等の診断名で呼ばれる傷害です。

事故などで身体に急激な力を受けると、重たい頭部を支えている首に強い衝撃が加わります。この衝撃によって首を捻挫するのが、むち打ちです。衝撃を受けた時に、ちょうど鞭がしなるように首が振られることから、かつて「むち打ち症」と呼称されていました。

日常生活で足首をひねってしまったような場合には、数日から数週間で痛みが引くことが多いかと思いますが、交通事故の衝撃は人間の日常動作で受ける衝撃よりもはるかに急激なため、受ける力は思った以上に(ときには自分が感じたよりも)大きくなることがあります。

そのため、事故当日には大して痛くなくても、翌朝以降に痛くて首が動かなくなることもあります。また、治療期間も、数ヶ月以上に及ぶことが多いです

また、厳密には首の捻挫によるものではありませんが、頭部への衝撃によって三半規管などが不調に陥ることがあります。三半規管は身体のバランス感覚を司っているので、これが不調になることで、気持ちが悪くなり、吐き気がしたり、めまいなどの症状に悩まされることがあります。これらの症状も、三半規管などの損傷が物理的に見えない場合には、頸部症候群の一部とすることがあります。

2 身体の痛み、しびれ、可動域制限

事故などで身体に急激な力を受けると、肩や腰にも強い衝撃が加わります。これによって生じる捻挫が、背部挫傷、腰部挫傷、左右上腕部挫傷(打撲)などの診断名で呼ばれます。

また、首には中枢神経である脊髄が通っているため、これが首への衝撃で不調になったり、圧迫されることで、首だけでなく、肩、手指、腕、腰などが一部動かなくなったり、肩、手指、腕、背中、腰などに痛みやしびれなどの症状として現れることがあります。

これは、神経が圧迫されている点が特定できれば、神経根障害や、椎間板ヘルニア等と呼ばれますが、MRIなどに写らない不調の場合には、症状が出ている部位の捻挫と一体のものとして診断・治療されることが多いです。その場合には、これを含めて部挫傷、腰部挫傷、左右上腕部挫傷(打撲)などと呼ばれます。

交通事故の衝撃は人間の日常動作で受ける衝撃よりもはるかに急激なため、これらの症状も、治療には数ヶ月以上を要することが多いです

3 むち打ち・身体の痛み等の通院先と検査

むち打ち等で身体に痛み・しびれなどの症状が生じたときは、病院の整形外科を受診します。症状が出たら、速やかに受診することが望ましいです。診察では、交通事故でどういった衝撃を受けたのかと、症状を漏らさず伝えます。MRI検査を受けるか聞かれたときは、受けることを希望した方がよいです

なぜMRIが重要かというと、レントゲンには基本的に骨しか写らないため、神経や健などはMRIでないとよく見ることができません。後日、なかなか治らないのでMRI検査をしたところ、椎間板ヘルニアが判明したといったケースは少なくありません。後日になって判明した場合、その椎間板ヘルニアが事故でできたものかどうかが問題となってしまうこともあります。そのため、できるだけ、事故直後にMRI検査を受けておくことが望ましいのです。ただし、医師が不要と判断しているのに強いてMRI検査を求めることはできませんので、あくまで医師と患者の判断となることにご留意ください。

また、病院の整形外科に頻繁に通院することが難しい場合、整骨院、接骨院を併用することもひとつの方法です

ただし、保険会社や裁判所に認められる診断をし、治療方針を決めることができるのは医師だけです。そのため、適正な損害賠償を受けるためには、必ず定期的に医師の診察を受ける必要があります。また、整骨院に通いたいと予め医師に伝えておくことも大切です

4 むち打ち・身体の痛み等の治療期間

むち打ち・身体の痛み等の治療は、数ヶ月以上に及ぶことが多いです。目安としては、3ヶ月から6ヶ月程度の通院になることが多いです。

椎間板ヘルニアなどの物証がない場合、ケガの重さは主に病院への通院期間と頻度で判断されます。そのため、医師の指示に従って、定期的に、症状が治るまでしっかりと通院することが大切です

5 むち打ち・身体の痛み等の損害賠償・後遺障害

むち打ち・身体の痛み等の被害にあった場合に請求できる損害のうち、他のケガと共通する部分については、「交通事故の損害賠償」で説明していますので、そちらをご参照ください。

ここでは、むち打ち・身体の痛み等の損害に特有の後遺障害の判断事情について説明します。

むち打ち・身体の痛み等が重く、概ね6ヶ月程度の治療後も症状が残っていて、これ以上よくなる様子が見られなくなった場合には、頸部痛・背部痛・腰部痛などで後遺障害の認定を申請することとなります

頸部痛・背部痛・腰部痛の後遺障害は、その障害がMRI画像などの客観的な証拠で裏付けられるものである場合には、後遺障害等級の中で下から3番目に軽い12級の認定を受けます。

これに対して、そうした裏付けはないものの、後遺障害があると認定された場合には、後遺障害等級の中では最も軽い14級の認定を受けます。

6 頸部痛・背部痛・腰部痛の後遺障害の損害賠償

(1)後遺障害慰謝料

後遺障害の慰謝料は、原則として、等級に応じた額が決まっています。

12級(裏付けのある場合)290万円
14級(裏付けのない場合)110万円

(2)後遺障害逸失利益

後遺障害により将来にわたって以前のように働くなくなったことに対する賠償金を、後遺障害逸失利益と呼びます。

後遺障害逸失利益の計算は、この計算式を用いて行います。

基礎収入×労働能力喪失率×労働能力喪失期間

頸部痛・背部痛・腰部痛の後遺障害の場合、労働能力喪失率、労働能力喪失期間は、原則として次のとおりです。これを基本として、個別に障害の重さなどを加味します。

12級(裏付けのある場合)10%10年
14級(裏付けのない場合)5%5年

たとえば、14級の場合、事故前の年収の約5%の5年分を後遺障害逸失利益として受け取ることになります。ただし、将来5年分をいま先にもらうことになるため、利息の控除などの計算が行われます。

計算方法の詳細については、「後遺障害に対する賠償金」をご参照ください。

7 むち打ち・身体の痛み等の損害賠償の金額

交通事故でケガをし、むち打ち・身体の痛み等が生じた場合の損害賠償の総額は、事故前の年収や、後遺障害を負ったかどうかで大きく変わりますが、目安としては、後遺障害のない場合、数十~80万円程度、後遺障害を負った場合、120~400万円程度となることが多いです。

8 まとめ

以上のとおり、むち打ち・腰部痛の後遺障害認定のポイントについて解説させていただきまいた。ただ、実際の後遺障害の認定については非常に悩ましいケースも多いものと考えられます。当事務所では、後遺障害の認定に関するサポートも対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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