不倫・浮気の示談書作成上の留意点
配偶者(妻・夫)が婚姻中に不倫や浮気をしたこと(不貞行為)が発覚した場合、不倫・浮気をされた方(他方の配偶者)は、不倫・浮気をした相手方と不倫・浮気をした配偶者に対して、不貞行為の慰謝料を請求することができます。
しかし、実際に慰謝料を払ってもらう際に示談書を書こうと思ったとしても、具体的に示談書に何をどう書いたらいいか分からないという方も多いのではないでしょうか。また、公正証書を作った方が良いという話を聞いたことがある方もいらっしゃるかもしれません。
本コラムでは、不倫・浮気をされた側の配偶者と、不倫・浮気相手との間の慰謝料請求に関する示談書について、不倫・浮気による慰謝料請求について経験豊富な弁護士が、重要なポイントを解説します。
目次
1 不倫・浮気の示談書とは
前述のとおり、配偶者(妻・夫方)が婚姻中に不倫や浮気をしたこと(不貞行為)が発覚した場合、不倫・浮気をされた方(他方の配偶者)は、不倫・浮気をした相手方と不倫・浮気をした配偶者に対して、不貞行為の慰謝料を請求することができます。
不貞行為による慰謝料の金額や支払方法等についての合意は、口頭でも成立しますが、後日、言った言わないという事態にならないように合意内容を明確にし、また、合意内容を確定的にするため、必ず示談書を作成することが一般的です。
(1)示談書とは
示談書とは、当事者の法的な問題・紛争等について話し合いがまとまった場合に、話し合いの結果の合意内容を書面にしたものをいいます。
不倫・浮気の場合、不貞行為に関する慰謝料その他の条件について合資した内容に関して、加害者と被害者との間で交わされる書面が示談書となります。
(2)合意書や和解書との違い
不倫・浮気の場合に取り交わされる書面について、示談書、合意書、和解契約書など題名は様々ですが、いずれも基本的には同じものを意味しており、その意味や効力は変わりません。いずれも話し合いがまとまった場合に当事者間の合意内容を記した書面を指します。
(3)誓約書との違い
誓約書とは、誰か1人が何らかの約束、決まりを誓う文書です。
不倫・浮気の場合に取り交わす誓約書としては、不貞行為をした人が不貞行為の事実を認め、不倫・浮気相手との今後の接触を断つ等の条件を約束する書面が一般的です。
示談書等と異なり、誓約書には不倫・浮気をされた側は署名や捺印をしません。不倫・浮気をされた側が署名や捺印をしないため、不倫・浮気をされた側は誓約書の内容に必ずしも縛られないという点が、示談書と誓約書の違いです。
2 示談書のメリット
(1)慰謝料を請求する側のメリット
前述したとおり、示談書を作成することで、不倫・浮気の慰謝料等に関する合意内容を書面として明確に確定することができ、将来的に紛争が再燃することを防止することができますので、不倫・浮気に関して合意を行う場合には示談書は必ず作成するべきです。
仮に、後日、相手が口頭で約束した慰謝料を支払わなかった、あるいは認めていた不倫の事実を否定し始めた場合でも、不倫の事実を認めて慰謝料支払いに応じる示談書があることは、裁判においても極めて重要な意味を持ちます。例えば、脅されたり騙されたりして無理やり示談書にサインさせられたといった特別な事情がない限り、示談書が存在することにより、裁判所において示談書に記載のとおり不倫の事実が存在し、慰謝料を支払う必要があると判断される可能性が高いです。
また、その他の示談書のメリットとして、示談後にまた不倫・浮気をした場合に違約金の支払いなどペナルティを課す条項を設けておくことで、再発防止を期待することも可能です。
(2)慰謝料を請求される側のメリット
慰謝料を請求される側としても、示談書に双方がサインすることで、いったん慰謝料を払った後に追加の金銭支払いを要求されて、何度も慰謝料を払うことになる事態を防ぐことができます。
また、口外禁止条項などを設けることができれば、自分の配偶者などに不倫・浮気の事実を知られることを防止することができます。
3 示談書に記載すべき条項
不貞行為の慰謝料に関する示談書に記載されることのある一般的な条項としては、以下のような事項が挙げられます。
- 不貞行為があったことを認める条項
- 不貞行為を行ったことを謝罪する条項
- 慰謝料額を定める条項
- 慰謝料の支払い方法に関する条項
- 接触禁止条項
- 第三者口外禁止条項
- 求償権の放棄に関する条項
- 清算条項
以下、不倫・浮気をされた側の配偶者が、不倫・浮気をした相手に慰謝料を請求し、示談書を締結するケースを想定して、示談書の条項の記載例を挙げたいと思います。なお、ここで挙げている記載例の書き方は、不倫・浮気をした配偶者と示談書を締結する場合でも、大きくは変わりません。
以下では、甲が不倫・浮気をされた側の配偶者、乙が不倫・浮気の相手、丙が不倫・浮気をした配偶者としています。
甲=配偶者に不倫・浮気をされた側の配偶者
乙=不倫・浮気相手
丙=不倫・浮気をした配偶者
1.不貞行為があったことを認める条項
『乙は、甲に対し、乙と丙との間で不貞行為を行ったことを認める。』
このように、不貞行為という事実があったことを認める内容の条項を規定することが一般的です。これは、後に定める慰謝料の発生原因を特定するためのものであり、浮気相手が不貞行為を認めている場合、規定するのが望ましいと思われます。また、不貞行為の期間や頻度などについて合意ができるのであれば、事実関係を確定するためにそのような期間や頻度についても記載することもあります。
なお、不倫・浮気を疑われている側で、不貞行為を認めるわけではないけれど、問題が大きくなることを避けるためにお金を払って終わりにしたいと考えて示談に応じる場合もありえますが、そのような場合に自分の認識と異なる事実を認める条項は設けない方がよいでしょう。
『乙は、甲に対し、乙と丙とが交際していたことを認める。』
不貞行為のような肉体関係は認めないけれど、何らかの交際があったことまでは否定しない場合には、イのような条項を設けることも考えられます。
2.不貞行為を行ったことを謝罪する条項
『乙は、丙との間で不貞行為を行ったことにつき、甲に対し深く謝罪する』
このように、不倫・浮気をした側が不倫・浮気をされた側の配偶者に対して、不貞行為について謝罪する内容の条項を規定することも一般的です。このような謝罪条項は精神的な意味での効力しかなく、これ自体が特別な法的効力を有するものではありませんが、不倫・浮気をされた側は求めことが多々あります。
3.慰謝料額を定める条項
『乙は、甲に対し、本件不貞行為の慰謝料として、●●円を支払う義務があることを認める。』
不貞行為による慰謝料の金額を定めるものであり、不貞行為に関する示談書では必須の条項です。上記の例では「慰謝料」としていますが、不貞行為があったこと自体が争われているような場合には、不貞行為の存在を前提としない「解決金」、「示談金」あるいは「和解金」といった表現をすることもあります。
金額をどのように定めるかについては裁判で認められる相場を参考にしながら当事者で話し合って決めることになります。
関連記事:不倫・浮気の慰謝料の相場
4.慰謝料の支払い方法に関する条項
『乙は、甲に対し、令和●年●月●日限り、前項(※慰謝料額を定める条項を指します。)の金員を甲の指定する下記口座に振り込む方法により支払う。ただし、振込手数料は乙の負担とする。』
慰謝料の支払方法に関する規定になります。すなわち、支払期限や支払回数、支払先を定めることになります。
『令和●年●月から令和●年●月まで、各月末日限り、●●円を支払う。』
慰謝料については一括で支払ってもらうことが基本となりますが、不倫・浮気した相手に十分な資力がなく、やむを得ず分割支払とする場合は、このように定めることもあります。
『乙は、本項の支払を1回でも遅滞したときは、当然に期限の利益を失い、甲に対し、直ちに債務の残額を支払わなければならない。』
また、分割払いとする場合には、途中で支払が滞った場合に備えて、このように、支払が遅れたときは直ちに全額を支払わなければならなくなるとする条項(期限の利益喪失条項)を設けることが一般的です。
5.接触禁止条項
『乙は、甲に対し、本合意書締結日以降、乙は丙に対して対面、口頭、電話、メール、コミュニケーションアプリ、SNS、手紙その他手段の如何を問わず、一切の連絡・接触をしないことを約束する。』
配偶者と不貞・浮気相手との関係を断つことを約束させる趣旨の条項です。不倫・浮気した配偶者と関係を立て直すことを前提とした場合には、再燃を防ぐために盛り込む場合があります。実効性を確保するためには、前述のように具体的に何をしてはいけないのか明確にすることが望ましいです。
この接触禁止条項に関してトラブルになるケースでは、接触禁止を約束した不倫・浮気相手ではなく、かつて不倫・浮気をした配偶者側から接触してきたのでやむを得ず対応した(と主張される)ケースがあります。このようなケースに備えて、『丙が乙に対して連絡・接触を図ったときも返答をしないこと』のように、相手からの連絡があった場合の対応を規定しておくことも考えられます。
また、より実効性を確保するために、『本項に違反したときは、乙は、甲に対し、接触・連絡1回ごとに●●円を支払う。』といった、違約金等のペナルティを定める場合もあります。
6.第三者口外禁止条項
『甲及び乙は、本合意書締結日以降、本件不貞行為の存在及び内容を正当な理由なく第三者に口外しないことを相互に約束する。』
『甲及び乙は、本合意書締結日以降、本件にかかる交渉の存在及び内容、並びに本合意の存在及び内容、その他本件に関する甲又は乙を特定しうる事項の一切について、口頭、電話、メール、コミュニケーションアプリ、 SNS、書面その他の方法の如何を問わず、口外してはならない。』
不倫・浮気をした側はもちろん、不倫・浮気をされた側にとっても、不貞行為に関する事実を周囲に口外されたくないと考えることは少なくありません。例えば、勤務先や共通の知人等に口外されると、不倫・浮気された側も多大なダメージを受けることがあります。そのため、上記のような第三者に口外しないことを約束する条項(第三者口外禁止条項)を設けることも一般的です。また、接触禁止条項の場合と同様に実効性を確保するために、違約金等のペナルティを定める場合もあります。
7.求償権の放棄に関する条項
『乙は、本件不貞行為に関し、丙に対する求償権を放棄する。』
法律上、不貞行為の慰謝料債務は、不倫・浮気をした配偶者と不倫・浮気相手が共同で負担するものとされています。そのため、不倫・浮気相手が慰謝料を支払った場合、その支払った金額のうちの一定割合について、不倫・浮気をした配偶者に対して求償する(負担を求める)ことが認められています。
しかし、不倫・浮気した配偶者と離婚はしないことを前提に、不倫・浮気相手だけが慰謝料を支払う(不倫・浮気した配偶者に負担を求めない)前提で慰謝料額を合意したにもかかわらず、後日、不倫・浮気した配偶者に対して求償がなされると、夫婦全体で支払いを受けられる金額が減額してしまうことになります。例えば、本来の慰謝料は200万円と想定して、不倫・浮気した夫に求償しない前提で不倫・浮気相手の慰謝料を100万円と合意したにもかかわらず、慰謝料100万円のうち不倫・浮気した夫に50万円の負担を求められてしまうような場合です。
そのため、このような事態を避けるために不倫・浮気相手が求償権を行使しない(放棄する)旨を規定することがあります。
『……乙が丙に対して求償権を行使した場合には、乙は甲に対し、丙から受領した金銭の全額を支払うものとする。』
もっとも、求償権は、法律上、不倫・浮気をした配偶者と不倫・浮気相手との間の法律関係なので、不倫・浮気をされた側の配偶者と不倫・浮気相手との合意によってその権利行使を制限することはできないとの考えもあります。そのため、不倫・浮気相手が、不倫・浮気をした配偶者に対して求償権を行使した場合にはその行使により得た金額を、不倫・浮気された側の配偶者に支払うとの形式で合意をすることもあります。
8.清算条項
『甲と乙は、本件不貞行為に関し、本示談書記載のほか、甲乙間に何らの債権債務関係も存しないことを相互に確認する。』
不貞行為に関し、当該示談書に記載されたもの以外については、何らの債権債務がないことを確認する条項(清算条項)です。この条項があることにより、後日、不倫・浮気相手に対して同一の不貞行為を理由に追加の慰謝料の請求等が認められなくなるため、紛争を終局的に解決することになります。
4 示談書締結までの流れ
示談書締結までの流れですが、一般的には不倫・浮気した配偶者や不倫・浮気相手に対して不倫・浮気の事実を指摘する連絡を行って示談交渉を開始するところから話し合いが始まります。
その後、示談交渉を通じて示談条件について協議を重ねて、合意に達した時点で示談書案を作成し、その内容で双方問題がなければ示談書を締結することになります。
示談書の締結方法ですが、直接会って示談書に双方が署名・押印等を行う場合もありますが、直接顔を合わせたくない場合には郵送で示談書を締結することも可能です。
具体的には、当事者の一方が示談書2通を用意して署名・押印などを行った上で、署名・押印などを行った示談書2通を相手方へ郵送し、相手方にも同様に受領した示談書2通に署名・押印を行ってもらい、そのうち1通を返送してもらう方法で締結を行います。示談書の作成については電子契約のサービスを利用することも可能です。
示談交渉のポイントについては関連記事もご参照ください。
関連記事:不倫慰謝料の示談交渉のポイント
5 公正証書の必要性
公正証書とは、公証人という資格を持った人に本人確認・意思確認を受けて作成した文書をいいます。
公正証書を作成すると、後日、公正証書どおりに相手方が示談金などを支払わない場合、改めて裁判をすることなく、いきなり差押え等の強制執行を行うことが法律で認められています。
公正証書がない場合、相手方が示談金などを払わない場合には、まず訴訟を提起して、裁判所に示談書のとおり示談が済んでおり相手方に約束どおり示談金を支払う義務があることを認める旨の判決を受けて初めて強制執行が認められます。
そのため、相手方が不倫の慰謝料を任意で支払ってもらえるか分からない場合や長期の分割支払を認めるような場合には示談書を公正証書で作成することを検討します。
ただし、公正証書を作成するには、事前に連絡して公証役場の予約を取り、当事者が揃って公証人に本人確認・意思確認を受けて作成してもらう必要があるため、相手方の協力が得られないと作成できないことには注意が必要です。
6 まとめ
以上、不倫・浮気の示談書作成上の留意点について解説いたしました。 以上のとおり、話し合いがまとまったとしても示談書の内容をどうするべきかについては事案を踏まえた慎重な検討が必要であり、示談書の作成はもちろん交渉時点からから弁護士の判断を仰ぐことが望ましいです。
G&Sでは、当事者の事情や事案を踏まえて、経験豊富な弁護士が個別具体的な事情に応じた最適な方法を考えて慰謝料請求を行います。不倫・浮気の慰謝料請求については、G&Sまでお気軽にご相談ください。