不倫・浮気による示談金(慰謝料)の相場
配偶者(夫・妻)による不倫・浮気が発覚した場合、配偶者や不貞相手に対して慰謝料を請求することができます。
この際、慰謝料を請求する側は、高額の慰謝料を請求したいと考えることが多い一方、慰謝料を請求される側は、できるだけ慰謝料を低額にしたいと考えることが多いでしょう。
適切に慰謝料を請求するには、まず不倫・浮気による慰謝料の相場を確認しておくことが重要です。
本コラムでは、不倫・浮気による慰謝料の相場、慰謝料に影響する事情について、不倫・浮気による慰謝料請求に関して経験豊富な弁護士が、重要なポイントを解説します。
目次
1 不倫・浮気の示談金(慰謝料)とは
配偶者(妻・夫)が肉体関係を伴う不倫・浮気をした場合は、配偶者や不貞相手に対して、受けた精神的苦痛に対する慰謝料を請求することができます。 この慰謝料請求は、離婚をしていなくてもすることができます。
不倫・浮気に対する支払の意味で出てくる慰謝料と似たような言葉として、示談金、賠償金、解決金といった言葉があります。
これらは、心身に不調を来して受診した病院の治療費や通院費、探偵の調査費用、弁護士費用など、慰謝料以外の損害を含む金銭という意味合いがあります。
また、配偶者や不貞相手が、不倫の事実や賠償責任を否定しつつ、早期解決のために示談に応じることがあります。この場合の示談金、解決金は、慰謝料かどうかは明確にせず、早期解決のために支払われるお金という意味になります。
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2 不倫・浮気の慰謝料の基本的な考え方
肉体関係を伴う不倫、浮気は、不貞行為と呼ばれます。配偶者(妻・夫)の不貞行為により精神的苦痛を受けることは、民法上の不法行為に該当し、不倫をした配偶者やその不倫相手に対して、不法行為に基づく損害賠償請求として慰謝料を請求することができます。
慰謝料の金額は法律で決まっているわけではありませんが、慰謝料金額の算定にあたって、裁判例上、最も重視されるのは、不倫によって婚姻関係が破綻したか(別居・離婚に至ったか)どうかです。不倫により別居・離婚に至った場合は100万円~300万円、別居・離婚に至らなかった場合は数十万~100万円が一般的なケースでの相場となっています。
実際には、裁判例上、別居・離婚に至ったか否かのほかに、結婚している期間の長さ、不貞行為を続けていた期間や頻度、回数、夫婦間の子供の有無などの要素が考慮され、慰謝料の金額は増減します。
3 不倫・浮気の慰謝料に影響する要素
(1)不貞期間の長短
一般的に、不貞関係を継続していた期間が長いほど、慰謝料額は高額になります。
不貞関係を継続していた期間が1年未満の場合には、頻度や会った回数、肉体関係に至らない交際期間なども考慮して、50~150万円程度が相場となっています。
(2)婚姻期間の長短
婚姻期間(結婚してから不貞行為が発覚、終了するまでの期間)が長い方が、短い場合よりも慰謝料の金額が高額になる傾向があります。 これは、婚姻期間によって作られた信頼を裏切った度合いが、通常は婚姻期間が長いほど大きいと想定されるためです。
婚姻期間が3年未満の場合には100万円以内に留まることが多く、数十万程度のこともあります。これに対して、婚姻期間が3年以上のケースでは、100万円以上となることが多いです。
婚姻期間が5年以上で、その大半の時期に不貞関係があったような場合には、300万円以上の慰謝料が認められるケースもあります。
ただし、婚姻期間が極端に短いケース(概ね1年未満)では、70~100万円と、期間の短さの割に慰謝料の金額が高額となることがあります。特に、婚約中から不貞行為を継続していたようなケースでは、不貞行為を隠して結婚に踏み切った点を重く評価され、慰謝料額が高くなることが多いです。
(3)子どもの有無及び年齢
不倫をされた夫婦間にまだ幼い子ども(未成熟子)がいる場合、慰謝料額が増額されることが多いです。だいたい就学未満の子どもが未成熟子とされます。
幼い子どもがいる夫婦は婚姻期間の短い方が多いですが、婚姻期間の短いケースでも幼い子どもがいる場合は、100万円以上の慰謝料額が認められるケースが多く、200万円以上の慰謝料が認められたケースもあります。
また、別のケースですが、不貞行為で女性が妊娠した場合、精神的苦痛が大きくなるため、慰謝料額は増額されることが多いです。
(4)婚姻関係の破綻(離婚に至ったかどうか)
前述2のとおり、裁判例上、不貞行為によって婚姻関係が破綻した(別居・離婚に至った)かどうかは、慰謝料の金額を決める大きな要素とされています。
(1)~(3)の要素にもよりますが、婚姻関係が破綻したケースでは、100万円~300万円の慰謝料が認められるケースが多く、これに対して、婚姻関係が破綻しなかったケースでは、数十万~100万円となることが多いです。
これは、そもそも不法行為に基づく損害賠償請求が婚姻関係の破綻を理由としており、一番被害が大きいといえるためです。
4 不倫・浮気の慰謝料にあまり影響しない要素
一方で、これらの事由は慰謝料にあまり影響しないことが多いです。
(1)相手の収入、資産額
配偶者や不貞相手の収入や資産の額、つまりお金持ちかどうかは、法的に認められる慰謝料に影響しません。精神的苦痛の大きさとほとんど無関係だからです。
芸能人やスポーツ選手の不倫で多額の賠償金が支払われたという報道がされることがありますが、あれは、離婚に伴う財産分与などを含む総額であることが多いようです。慰謝料だけの金額ではない可能性が高いと思っておいた方がよいでしょう。
「法的に認められる」慰謝料と記載しましたが、不貞相手の収入や資産が慰謝料額に影響することがひとつだけあります。不貞相手が、周囲への発覚を防ぐために多額の口止め料を払ってもいいと考えていて、自発的に多額の示談金を支払ってくれるケースです。そうでない場合は、影響ありません。
(2)小学生以上の子どもの存在
前述3(3)のとおり、就学未満の幼い子どもがいる場合は、慰謝料が増額されることが多いといえますが、これに対して、夫婦間に小学生以上の子どもがいることは、あまり慰謝料の金額には影響しません。
また、子どもが不倫を理解できる年齢に達している場合、子どもも精神的苦痛を受けることがありますが、子どもからの慰謝料請求が認められたケースはほとんどありません。
(3)精神疾患の診断書
不貞行為の発覚によってうつ症状、不眠症などに罹患したという診断書をもらった場合、増額要素として考慮されることもありますが、あまり重視されないことが多いです。
それは、不貞行為を受けることによる精神的苦痛の大きさは人によって様々ですが、慰謝料の金額は、特にショックを受けやすい人だったから増額されたり、心がタフな人だから減額したりすることは控えるべきという考えが背景にあるといわれることもあります。
(4)嘘・不誠実な対応
一般的に、慰謝料を請求できるような精神的苦痛を与えたケースでは、発覚しないように、発覚した後も問題を小さく見せるために、加害者が噓をついたり、不誠実な態度を取ることが非常に多いです。
しかし、一般的な慰謝料の額は、こうした嘘や不誠実な態度を取る大抵の加害者を想定した金額のため、不倫をした配偶者が噓をついたり、不誠実な態度を取ったことは、これ以上の増額事由とはならないことが多いです。逆に、自分から過去に不倫していたことを告白したり、知っていること以上のことを話したようなケースでは、慰謝料が減額されることがあります。
ただし、不貞行為をしたことが明らかなのに、噓をついたり、不誠実な態度を取り続けている人は、信用されないため、客観的に明らかになっている以上の不貞行為があった可能性が高いといった判断材料になることはあります。
5 請求する相手と求償の問題
(1)浮気相手にだけ全額を請求することも可能
不倫・浮気をされた場合、配偶者と不倫・浮気相手の両方に対して慰謝料を請求することができますが、配偶者と夫婦関係を続けるなどの理由で、あえて不倫・浮気相手にだけ慰謝料を請求することもできます。
不貞行為は、配偶者と不倫・浮気相手の共同不法行為と評価されるところ、法律上は両者が連帯して慰謝料の全額を払わなければならないとされます。例えば、不貞行為による慰謝料の総額が200万円の場合に片方が100万円ずつ支払えばよいわけではなく、それぞれが200万円全額の支払義務を負うということです。そのため、配偶者には慰謝料を請求せずに、不倫・浮気相手にだけ慰謝料を請求する場合でも、不倫・浮気相手に対して慰謝料の全額を請求することができます。
(2)配偶者に対する求償権
しかし、配偶者と夫婦関係を続けつつ、不倫・浮気相手から慰謝料を全額支払ってもらう場合、注意することがあります。それが求償権の問題です。
前述のように不貞行為は、肉体関係を持った男女が共同不法行為として連帯して損害賠償責任を負います。そのため、どちらか1人が慰謝料を全額払った後、もう片方に対して、責任割合に応じた額の負担を求めることができます。この負担を求める権利を求償権、負担を求めることを求償請求といいます。
そのため、不倫・浮気相手にだけ慰謝料を請求して認められても、その後、不倫・浮気相手から配偶者に対して求償請求を受けることになるため、夫婦全体で考えた場合、最終的に手元に残る金額は減少することになります。
これを考慮して、不倫・浮気相手から慰謝料を支払ってもらって終わりにしたい場合、同時に、配偶者に対して求償をしない、求償権を放棄すると約束してもらう、いわゆる求償権放棄をしてもらうことを合わせて合意することが重要となってきます。
6 まとめ
以上のとおり、慰謝料の相場は幅広く、様々な要素が考慮されることで金額が増減します。 そのため、示談にあたっては、それぞれの事案における個別事情を把握し、有利な要素と不利な要素を検討してから交渉に臨むことが、慰謝料の金額を決める重要なポイントとなります。
G&Sでは、過去の裁判例などを踏まえて、経験豊富な弁護士が個別具体的な事情に応じた最適な方法を考えて慰謝料請求を行います。不倫、浮気の慰謝料請求については、G&Sまでお気軽にご相談ください。