相続の基礎知識
目次
1 相続人の範囲
(1)法定相続人
相続を受けられる人は、民法で決められています。これを法定相続人といいます。他方で、亡くなった方のことを、被相続人(亡くなった方。相続される人)といいます。
なお、法定相続人の範囲は、亡くなった方の親族にどういう人がいるかによって変わります。
親族の状況 | 法定相続人 |
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①子供がいる場合 | 被相続人の配偶者(結婚相手)と子供 子供が先に亡くなっている場合はその子孫 |
②子供や孫がいないか全員先に亡くなっている場合 | 配偶者と被相続人の父母 |
③両親も先に亡くなっている場合 | 配偶者と祖父母 |
④父母、祖父母が先に亡くなっている場合 | 配偶者と被相続人の兄弟姉妹 兄弟姉妹の一部が先に亡くなっている場合は甥姪 |
解説すると、亡くなった方に子供や孫がいる場合、親は相続人になりません。また、親や祖父母がいる場合、兄弟姉妹は相続人になりません。
亡くなった方の子供が亡くなっている場合にその子孫が代わりに相続人となったり、兄弟姉妹が亡くなっている場合に甥姪が代わりに相続人になることを、代襲相続といいます。亡くなった方の子孫は、理論上はひ孫、玄孫の代まで何代でも代襲相続しますが、甥姪のさらに子供は代襲相続しません。
関連条文 |
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民法887条1項(子及びその代襲者等の相続権) 1 被相続人の子は、相続人となる。 2 被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。 3 前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。 同889条(直系尊属及び兄弟姉妹の相続権) 1 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。 一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。 二 被相続人の兄弟姉妹 2 第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。 同890条(配偶者の相続権) 被相続人の配偶者は、常に相続人となる。この場合において、第887条又は前条の規定により相続人となるべき者があるときは、その者と同順位とする。 |
(2)内縁関係と相続(特別縁故者)
戸籍上の関係がない人は相続人にはなれません。実際によく問題になるのが内縁の妻(夫)です。事実上夫婦でも、籍を入れてない場合、相続人にはなりません。2人の間に認知された子がいれば子が相続することができますが、そういった関係もない場合、亡くなった方の親や兄弟姉妹に相続権が移ることになります。
しかし、法律上の相続人が誰もいない場合は、例外的に、生前深い仲にあった方が家庭裁判所に申請して認められれば財産を承継できます。これを特別縁故者といいます。
関連条文 |
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民法958条の3(特別縁故者に対する相続財産の分与) 1 前条の場合(※相続人の捜索を行っても、誰も相続人が現れなかった場合)において、相当と認めるときは、家庭裁判所は、被相続人と生計を同じくしていた者、被相続人の療養看護に努めた者その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、清算後残存すべき相続財産の全部又は一部を与えることができる。 2 前項の請求は、第958条の期間(※相続人はこの期間中に名乗り出るようにと官報でアナウンスされた期間)の満了後3か月以内にしなければならない。 |
2 相続の承認と放棄
(1)単純承認・相続放棄
ア 単純承認と相続放棄
相続人は、被相続人(亡くなった方)の財産を包括的に、つまりプラスの財産だけでなく債務、借金も引き継ぐことになります。そのため、債務や借金が多い場合は相続放棄した方がよい場合があります。
これに対し、原則どおり相続することを承認(単純承認)といいます。
イ 相続放棄の手続き
相続放棄は、亡くなってから3か月以内に、家庭裁判所に申立てをする必要があります(これを、相続放棄の申述といいます。)。
たまに、相続人の間で誰がどの遺産を相続するか決めた際に、自分は財産を一切相続しないことを定めた書面を作って判を押したので、自分は相続放棄が済んでいると勘違いしているケースがみられます。これは遺産分割であって、相続放棄とは認められません。相続放棄の際は、必ず裁判所に個別の申請をします。これに対して、遺産分割はあくまで相続人同士の間の取り決めに過ぎないため、借金を他の相続人だけが負うことに決めても対外的な効力はありません。相続放棄の申述がないと借金の返済を求められることがありますので、注意が必要です。
関連条文 |
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民法938条(相続の放棄の方式) 相続の放棄をしようとする者は、その旨を家庭裁判所に申述しなければならない。 |
(2)限定承認
単純承認、相続放棄以外に、債務や借金が多いときだけ放棄するという手続もあります(これを限定承認といいます。)。限定承認をするには、財産を網羅した目録の作成など、かなりの手間暇が必要となりますので、法人化されていない大きな個人商店の店主など、資産と債務がどちらも大きい方が亡くなったときに、まれに使われます。
(3)法定単純承認
プラスの相続財産を自分の物のように売却したり消費したりしておいて、債務だけ相続放棄する行為は原則として許されません。そのため、相続人が相続財産を処分(長期間の賃貸、売却など)したときや、相続放棄をしたのに相続財産を隠匿したり消費したりしたときなどは、単純承認をしたものとみなされます。これを法定単純承認といいます
なお、相続放棄後の相続財産の隠匿や消費については、後順位の相続人が単純承認した後には法定単純承認となりません。相続順位が行ったり来たりして混乱するのを防止するためです。
関連条文 |
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民法921条(法定単純承認) 次に掲げる場合には、相続人は、単純承認をしたものとみなす。 一 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき。ただし、保存行為及び第602条に定める期間を超えない賃貸をすることは、この限りでない。 二 相続人が第915条第1項の期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき。 三 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、私にこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき。ただし、その相続人が相続の放棄をしたことによって相続人となった者が相続の承認をした後は、この限りでない。 |
(4)相続放棄による相続人の変更
法定相続人のところで説明したとおり、亡くなった方に子供や孫がいる場合、亡くなった方の親は相続人になりません。また、亡くなった方に親や祖父母がいる場合、兄弟姉妹は相続人になりません。
しかし、相続放棄をした人は、最初から相続人ではなかったことになるため、相続放棄した人がいない場合の順位で相続が発生します。例えば、亡くなった方の子供が全員相続放棄をした場合、亡くなった方の親が相続人になります。
関連条文 |
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民法939条(相続の放棄の効力) 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。 |
(5)相続放棄の余波
このように、親族が相続放棄をすると他の人が新たに相続人となるため、意外な親戚の相続人になることがあります。借金を負った親戚が亡くなって、他の親戚が相続放棄をした場合、いつの間にか自分が借金の相続人となっている可能性がありますので、注意しておいて、気づいたら速やかに自分も相続放棄することを検討してください。
相続放棄は、自分が相続人となったことを“知った”ときから3ヶ月以内に行います。また、3ヶ月以上経ってから亡くなった方に借金があったことが判明した場合も、資料を揃えて裁判所に申立てを行えば、相続放棄が認められる場合があります。もし、債務の相続人となっていることに気づいたときは、弁護士に相談された方がよいでしょう。
3 相続財産と遺産分割
(1)遺産分割
故人の所有物は、遺産(=相続財産)として、相続人に承継されます。
遺言がある場合は、遺留分を除いて、遺言どおりに遺産が承継されます。
遺言がない場合は、物はいったん法定相続人の共有となります。相続人全員で遺産分割を行って、最終的な承継先を決めていきます。
(2)遺産分割の流れ
ア 遺産分割協議
遺産分割は、原則として、相続人全員で話し合い(協議)を行って決めます。この話し合いの手続のことを「遺産分割協議」といいます。
イ 遺産分割調停
遺産分割協議が相続人間の話し合いだけでまとまらない場合、家庭裁判所に遺産分割の調停を申し立てることを検討します。
遺産分割調停では、調停委員を介して、相続人が話し合いを進めます。調停委員は、中立の立場で、資料の提出を要請したり、分割案の提案を行ってくれます。なお、調停はあくまでも家庭裁判所における調停委員を介した話し合いの手続であり、相続人全員が納得しない限り、成立しません。
ウ 遺産分割審判
遺産分割調停での話し合いがまとまらずに不成立で終わると、自動的に審判に移行します。なお、調停を省略して、『最初から審判を申し立てる』ということは原則としてできません(調停前置主義)。
遺産分割の審判では、調停とは違って、裁判所が主張及び証拠を判断して最終的な分割内容を決めるという強制力があります。最終的に裁判所がくだす分割内容を、決定(審判)と言います。
エ 遺産分割に関する訴訟
例えば、亡くなった方と相続人が同居していた場合、家にあった現金が相続財産に含まれるかで意見が食い違う場合があります。そもそも相続財産の範囲に争いがある場合、遺産分割を進められないことになります。
そのような場合には、遺産分割と並行して、相続財産の範囲を決めるために、あるいは使い込んだ財産の返還を求めて、裁判を行う必要が生じることがあります。
裁判所を利用する手続は、自分だけだと難しい場合がありますので、弁護士に相談することをお勧めします。
関連条文 |
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民法907条(遺産の分割の協議又は審判等) 1 共同相続人は、次条の規定により被相続人が遺言で禁じた場合を除き、いつでも、その協議で、遺産の全部又は一部の分割をすることができる。 2 遺産の分割について、共同相続人間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、各共同相続人は、その全部又は一部の分割を家庭裁判所に請求することができる。ただし、遺産の一部を分割することにより他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合におけるその一部の分割については、この限りでない。 |