遺産分割の手続の流れ

相続人間で相続財産の分割方法を決めるための「遺産分割」については、法律でその手続内容が定められています。もちろん相続人間の話し合いで解決すれば問題ありませんが、話し合いがまとまらない場合には裁判所における調停・審判などの法的手続の利用も視野に入れる必要があります。本コラムでは、そのような遺産分割の手続の流れについて解説いたします。

目次

遺産分割の手続の全体像

1 遺言

(1)遺言の有無の確認の必要性

遺言があれば、遺言の内容を前提とした割合・内容での遺産分割をまず検討することになりますので、遺言の有無を確認することが重要となります。遺言がないものとして遺産分割協議を行い、遺産分割協議が成立した後、遺言があることが判明した場合、遺産分割協議自体をやり直す必要が生じる場合がほとんどです。

調査の方法としては、相続財産の調査とあわせて、被相続人がそうした書類を残していそうな場所を探すことのほか、もし公正証書遺言が作成されていれば公証人役場に記録が残っていますので、地域の公証人役場に問い合わせることが考えられます。

(2)遺言書検認

公正証書遺言以外の遺言書の保有者は、相続開始後遅滞なく家庭裁判所に検認の請求をしなければならないとされています。

検認とは、相続人に対して遺言の存在と内容を知らせるとともに、遺言執行前に遺言書を保全し、後日の変造や隠匿を防ぐために行う手続とされています。なお、遺言の有効・無効を確定してくれる手続ではないことに注意が必要です。

検認手続は、相続人全員に通知の上で行われますので、相続人全員の住所を調査する必要があるところです。

このように検認手続は、相続人全員に対して遺言の存在と内容を知らせるものなので、遺産分割協議の開始を行う契機となることが多いです。

2 遺産分割の手続

遺産分割を行うに当たっては、①誰が相続人となるのか(相続人の範囲)、②何が遺産となるのか(遺産の範囲・評価)、③どのような割合で分割するのか(指定・法定相続分、特別受益、寄与分)、④どのように分割するのか(現物分割、代償分割、換価分割)が問題となります。

そして、①誰が相続人となるのか(相続人の範囲)、②何が遺産となるのか(遺産の範囲・評価)を確定させた後、③どのような割合で分割するのか(指定・法定相続分、特別受益、寄与分)、④どのように分割するのか(現物分割、代償分割、換価分割)を共同相続人間で協議することとなりますが、遺産分割協議を開始する時点で、②がはっきりしていない場合には、各共同相続人に遺産分割協議を行いたい旨の通知を行うと同時に、その通知書において把握している相続財産がないかどうか尋ねることがしばしばあるところです。

なお、①誰が相続人となるのか(相続人の範囲)、②何が遺産となるのか(遺産の範囲・評価)を確定させた後、③どのような割合で分割するのか(指定・法定相続分、特別受益、寄与分)については別のコラムで解説していますので、以下では④どのように分割するのか(現物分割、代償分割、換価分割)について解説します。

3 遺産分割の方法

現物分割を原則として、遺産の利用状態(できるだけ現状維持)、細分化防止の観点及び当事者の意向によるとされています。

(1)現物分割

分割は、現物分割が原則とされています。

例えば、相続分に応じて現預金を等分するといった方法です。

現物が相続分に応じて公平に分けられるものであればこれでよいのですが、不動産が大きいなど、現物で公平に分けられない場合は他の分割方式を組み合わせて調整することとなります。

(2)代償分割

代償分割とは、共同相続人の1人又は数人に他の共同相続人に対する債務を負担させて、現物の分割に代える分割方法であるとされています。例えば、唯一の遺産である不動産を子の1人が取得し、当該不動産の評価額を基礎としてその他の共同相続人の相続分に応じた代償金をその子1人が支払うような場合が考えられるところです。

(3)換価分割

換価分割とは、遺産の全部又は一部を換価してその換価金を分配する方法であるとされています。

審判では、換価を命じる裁判(遺産の競売又は任意売却)の制度があります。

4 遺産分割協議

(1)遺産分割協議が成立した場合のその後の流れ

遺産分割協議が成立した場合、遺産分割協議書を作成するのが通常です。

遺産分割協議書では、遺産分割手続において問題となる①から④の内容を書面化することとなります。

また、遺産分割時点では判明していなかった遺産が後になって判明した場合の処理方法についても定めておくこともあります。

遺産分割協議書の作成については、「遺産分割協議書の作成と作成上のポイント」でも解説します。

(2)遺産分割協議が成立しなかった場合のその後の流れ

遺産分割協議が成立しなかった場合、家庭裁判所に対して遺産分割調停の申立てを検討することとなります。

なお、遺産分割調停は、あくまでも当事者間の合意がなければ成立しません。したがって、調停でも主張が平行線を辿れば、調停は不成立に終わり、自動的に審判に移行することとなります。

5 遺産分割調停

遺産分割調停の流れは次のとおりです。

※1:調停期日は1か月から2か月に1回のペースで行われます。

※2:当事者本人が出席するのが原則となります。

※3:申立書以外の主張書面の提出は任意となります。

遺産分割調停が成立しなかった場合には、自動的に審判に移行します。

審判手続では、当事者の合意がなくても裁判所の判断によって結論が下されます。裁判所の下した審判に不服がある場合には、高等裁判所に即時抗告を行うこととなります。

6 遺産分割審判

遺産分割審判の流れは次のとおりです。

※審判期日は1か月から2か月に1回のペースで行われます。

7 抗告・裁判

遺産分割審判に対して即時抗告を行うと、高等裁判所で審理されます。ここで、審判を覆してもらえるように主張や証拠を提出します。高等裁判所が即時抗告の理由は妥当であると判断した場合、審判に代わる裁判の開始が決定され、改めて裁判で遺産分割についてお互いの主張を述べることとなります。

8 まとめ

以上で解説したように、遺産分割では相続人間の話し合いから始まり、裁判所における遺産分割調停・審判まで具体的な手続が法律で定められています。各相続の事案や相続間の関係性を踏まえて適切な手続を選択して進める必要があります。当事務所では遺産分割の法的サポートから代理人として交渉することまで対応しておりますので、お気軽にご相談ください。

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G&S法律事務所
野崎 智己(Nozaki Tomomi)

弁護士法人G&S法律事務所 パートナー弁護士。早稲田大学法務部卒業、早稲田大学大学院法務研究科修了。第二東京弁護士会にて2014年弁護士登録。弁護士登録後、東京丸の内法律事務所での勤務を経て、2020年G&S法律事務所を設立。スタートアップ法務、医療法務を中心に不動産・建設・運送業などの企業法務を幅広く取り扱うとともに、離婚・労働・相続などの一般民事事件も担当。主な著書として、『一問一答 金融機関のための事業承継のための手引き』(経済法令研究会・2018年7月、共著) 、『不動産・建設取引の法律実務』(第一法規・2021年、共著)、「産業医の役割と損害賠償責任及びその対処」(産業医学レビューVol.32 No.1・令和元年、共著)、『弁護士のための医療法務入門』(第一法規・2020年、共著)等。